びっき 2011年8月号

雨ですね。気温も快適。暑くもなく寒くもない雨の日は、じつは一年のうちそんなになくて、けっこう貴重なのかもしれない。風もなく、窓を開けても雨が入ってこないので、その気配をじっくり楽しむことができる。アブラゼミのカナキリ声につかれたこの耳には、雨のしとしというのが、心地よい。肌に空気中の水分が、浸透していくかのような、うれしい錯覚。

こういう日は、どこかの水辺でカエルがのど元をせわしなく、しかしかれにとってはのんびりと膨らませてはしぼめている(そうだリズムはちがうのだ)、そんなことを想像する余裕ができる。カエルは跳ねる。跳ねないカエルもいる(跳ねられない体型になっている)。普段なら、こういうことは考えないのだけど。

両棲類とか、爬虫類とか、できるだけ「無表情」なやつが好みだ。なんとなく悪そうなヒキガエルとか、クロコダイルとかアリゲーター系のワニとか、あまり好きではない(ガビアル系のワニは好きだ)。我関せず、な雰囲気が好みで、人間の感情を安易に投映してしまうような顔は鑑賞に雑念が入るので,あまりよろしくない。カメなんかも、ミシシッピアカミミガメ(ミドリガメ)とか、ちゃんとみるとずいぶん派手な模様をして、いかにも悪そう。ふん、ずいぶんかぶきやがって、という印象であまり好きにはなれない。ウミガメなんか言語道断で、あの顔はほとんど人間で、浜からあがった濡れたつるっパゲのオヤジにしかみえない。

その点ヘビなんか、嫌いなひとも多いでしょうが、最高の無表情っぷりを発揮している。ヘビのいちぶには、口の周りにピットと呼ばれる器官があって、そこで温度が「みえる」らしいです。視力がほとんどないかわりに、そのピットで恒温動物の体温を捉えて補食するとのこと。サーモグラフィーみたいなのを想像すればいいんでしょうか。温度が高いのが赤く、低いのが青くみえるのかは知らないけど、この圧倒的に異なる世界観は、その無表情と合わせてとても魅力的。自分のみている世界がすべてではない、ということを気づかせてくれる。

しかしここまで書いて思ったが、考えてみれば「無表情」も、ひとつの表情なのですね。すでになんらかの感情を投映してしまっていますな。