読書記録『月山・鳥海山』(森敦)26-2017

月山・鳥海山 (文春文庫)

月山・鳥海山 (文春文庫)

本には読むタイミングがあると思う。それはもちろん読み手が「早熟」であれば、より人生の早い時期にその本に出会い、そいつの生をより豊穣なものにするのかもしれないが、その逆もないとは言い切れない。じじつ、あまりにも高い壁にあまりにも早くぶち当たることで、その対象への興味を失ってしまったり、本当はそいつにとって重要な課題を共有してくれるものなのに、つまらない、難しい、といった簡単な理由で、一生涯再びそのものに触れる機会を逸することは、誠に残念でならないことと思う(まあ、死ぬまでに知らなければそれはそれでいいのだが)。

『月山』は森敦の中編である。たまたま本屋で平積みされていたので、夏の帰省のタイミングで山好き、東北出身の自分にはある種、啓示のような出会いと錯覚してもいいくらいの邂逅だ。しかし、内容は山岳小説でもなんでもなく、筆者が滞留した、月山周辺の風土、人々を描いた、なんとも「退屈」といえば、それで終わってしまうような小説である。月山は「死の山」だそうだ。森は、月山周辺の幽玄な世界で、死者と生者との世界を体験する。ただしそこに境界はない。オカルトと読めばそう読めなくもないが、決してそうではない。主観なのか客観なのか、わからない世界観で、その美しさに鳥肌が立った。読んでよかった。