読書記録『ふがいない僕は空を見た』(窪美澄)

ふがいない僕は空を見た (新潮文庫)

ふがいない僕は空を見た (新潮文庫)

生々しい、というか生臭くてとくに序盤は読んでて気持ちのいいものではない。まあ、それは作者の意図なんだろうけど。しかしセックスの描写って難しいな。すごく即物的。官能的なものを避けている。オトコにとっては、かなりAV的になってしまうというか、チープ感。受け取る側の問題なのかもしれないがw 女子にとっては、ああいう描き方はどう感じられるのだろう。

でも、後半に向けて締まっていく印象。最後の「花粉・受粉」は好き。それ以前では強い存在として出てくる斎藤の母親の一人称で大人の世界になるので、世界観が自分と近くなって落ち着く。それまでの高校生の一人称(「世界ヲ覆フ蜘蛛ノ糸」大人で高校生とは違うけど、ぼくにとっては「あんず」という名前とコスプレが異物感があって生活人としての大人からは遠い)はなかなか不安定。

 自然、自然、自然。ここにやってくるたくさんの産婦さんたちが口にする、自然という言葉を聞くたびに、私はたくさんの言葉を空気とともにのみこむ。彼女たちが口にする自然、という言葉の軽さや弱さに、どうしようもない違和感を抱きながら、私はその気持ちを言葉に表すことができない。乱暴に言うなら、自然に産む覚悟をすることは、自然淘汰されてしまう命の存在をも認めることだ。(p.262)