- 作者: 北杜夫
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1966/06/01
- メディア: 文庫
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ぼくのばあい最近飼い始めたヘビなんかについてもそうですが、好きなムシについて考えているとき、(自分は生物学者ではないので)、ある意味、社会的には「意味のないこと」をしているわけです。「役に立たないこと」と言い換えることもできます。
仕事でもプライベートでも、ぼくらは実にたくさんの他者と関わりあいながら生きている。名前を与えられ、免許証やパスポート、健康保険証やらの「身分証明書」で辛うじてこの社会のなかでその場を与えられている。自分という存在が理屈で表現されている。論理や因果関係、意図、結果の妥当性、正当性がつねに意識され求められる。
正直、そればっかりだと疲れてしまいます。なんか、脱力するというか。はー、ぐったり、みたいな。コムズカシく書くと、どうしてそこまでして自分の正当性を主張したいの?ってことですかね。
そんなとき、ぼんやり小さな動物たちに思いを馳せると、自我が溶解するというか、忘我というか(「エクスタシー」という語感とはちょいと違うけど)、とにかく楽になることができます。もちろん、まさにその瞬間は自分を失っているので、あとになって「あのときはのーんびりできてたな」とぼんやり振り返っての感想ですが。
よく大自然とか宇宙に心打たれて、日常のささいなことなんてどうでもよくなった、っていうひとがいますが、これに近いのかもしれません。ぼくのばあいは、あまり物理的な広大さには心は惹かれなくて、小さな動物の目線に降りた世界観、あえてコトバを与えるとすれば「小宇宙」的なものにグッとくる、という感じでしょうか。ぜんぜん違うかもしれないけれど、密教の曼荼羅(マンダラ)とかも自分のなかではわりと近い。