読書記録『空白を満たしなさい』(平野啓一郎)

空白を満たしなさい

空白を満たしなさい

2011年から12年にかけて雑誌「モーニング」に連載されていた小説。自殺した死者がよみがえり、自分はなぜ死んだのかを問いながら、世界のなかでの自分の位置を見定めていこうとするという内容。エキセントリックな設定ながらも、なんとかシラケさせずに最後までもっていっているのは、いつもながら丁寧に書かれた独白やダイアローグによるもの(毎回主人公がスマートすぎて、ぼくには共感はできないし、登場人物にいまいち重みがないのはいつも引っかかる部分ではある。それがなぜなのかはまだ分からないが)。

平野啓一郎の先の小説『ドーン』(講談社文庫)から続く、かれの説くところの「分人主義」(dividualism)の集大成?ともいえる本作は、年間3万人も自殺しているこのいまの日本に、実践的に向き合おうとしていることは確かで、ぼくはこういう現実にコミットしようとする意欲が好きで、かれの作品を読んでいる。ぼくも自分のばあいも他者のばあいも、自殺についてはよく考える(つねに死にたいと思っているわけではございません、5回に1回くらいかなw)ので、とくに本作は読まずにはいられなかった(ちなみに前作の『かたちだけの愛』(中央公論新社)は、登場人物のパーソナリティが現実離れしすぎていて駄作と思われるので読まなくてもよい)。

死について考えないひとはいないだろう。「死人」を主観で真剣に書いている本も少ないし、読後感はけっこう爽やかだったので、年末年始に読むのもよいかと思います。ちなみにぼくは、「自殺するにしてもそう簡単に死ねないな…」と、わりと元気になりました。

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