車輪のうえ(8)

 熱帯(亜熱帯もそうかな)の家屋には、守衛が棲みついている。突然、キュキュキュ!と鳴いて、朝には黒い小さなフンを置いていくだけだが。「夜漏り」とはよくいったものだ。

 日本の自分のイエにいたらうっとうしいかもしれないが、旅先で寛容になっているのか、それともぼくがただ単に爬虫類を好きなだけだからだろうか、たいして気にならない。小さくてかわいいのだが、いかんせん物足りなくて、コアな爬虫類ファンとしてはもっとゴージャスなやつに憧れる。彼らにとっては、余計なお世話、か。

 あくまでもマイペースで、人間などおかまいなしにただ「そこにいる」彼らのような存在は、孤高の旅行者にとっては、同志のように感じられてくる。しかしこれも、哺乳類の一方的な余計なお世話、か。壁の色に同化してやや白くなっている彼らは、少しだけ神聖で潔白にみえる。やはり、フンは落とすのだけど。

 この日はポンティアン・ケチルからバトゥ・パハまでおよそ70キロの道のり。日本の東北や北海道を走ったときは、よく自転車ツーリングでいわれる100キロ/日というペースで走っていたのだが、やはりしつこいがとくに暑さに弱いぼくは、早朝からかなりナーバスになっていた。後ろのキャリアにチューブでくくりつけているペットボトルの水は、すぐに太陽光を受けてぬるま湯になる。日陰が、ない。だから昼飯の時の冷たいコーラには、非の打ち所がないのである。ふつうに生きていたら、昼飯とコーラという組み合わせはありえないし、毎日コーラというのも不健康極まりない。

 とかなんとか、暑さとか栄養補給とか、色気のないことをぼーっと、考える、というまでもなくアタマに浮かべながら走っていると。昼過ぎには目的地に到着。「Fairlyland Hotel」という、怪しげなネーミングのホテルに決める。シャワーが部屋の外にあるが、まあ小ギレイだしはやく休みたいぼくは即決。

 やや(かなり)ビビり気味だけど、ペースらしきものはつかめてきた今日この頃。