読書記録『透明な迷宮』(平野啓一郎)

透明な迷宮

透明な迷宮

「ページをどんどん捲りたくなる」小説ではなく、「ページを捲らずにいつまでも留まっていたくなる」小説。
(単行本帯)

ということで、ここ最近氏が描いてきた「分人主義」に「一区切り」ついて出版された短編集。著者の希いに反し、あっという間に読んでしまった。なのであとでまた夏の帰省の移動中にでも読もうと思います。

近年の「分人主義」作品では、露骨といえるほどに現代的な問題(『ドーン』ではけっこう未来ですが)にコミットしてきたわけですが、今作は誤解を恐れずにいえばいい感じに力が抜けているというか、シンプルかつ丹念な力の注ぎかたをしている印象を受けました。単純に「小説家」としての力を自分自身で確認しているような。「読ませよう」という力みが少なくとも表面には出ていない。分かりにくい例でいえば、ソロ活動をしばらくしたあとに、単純に「ヴォーカル」に専念して作られた宮沢和史のアルバム『SPIRITEK』みたいな感じ。

ともかく好きな本です。ちなみに装丁はムンクの『接吻』で、かなり手が込んでて所有欲をそそりますが、夏の汗でシワシワになるのでカバー必須。

ドーン (講談社文庫)

ドーン (講談社文庫)

SPIRITEK

SPIRITEK