Tokyo Night Run 57km(コンクリート・ジャングル・トレイル ?)

小学校時代の同級生かつラン仲間のK氏に誘われ、UTMFのおよそ1ヶ月前に夜間走練習を決行。長い距離への慣れ、夜の走行など、ランそのもののトレーニングというよりも、似た状況を作ってシミュレーションという意味合いが強い。週の前半からカフェインを絶って、夜にカフェインの効き具合を試してみたり。
 
氏のもともとの提案は東京ゲートブリッジやお台場をめぐるというものだったが、ゲートブリッジもレインボーブリッジも深夜の通行はできず、かつ、当たり前だが徒歩でのアプローチを前提としていないのでアクセスも不便で、晴海通り、豊洲、新木場を経由し横をかすめるというルート。そのあと、浅草、上野、東京、東京タワーを経由し、川崎に戻ってくる予定。深夜0時過ぎに合流、近くの河川敷からスタート。
 
汐留あたりまでの街なかは、つまらなくてひたすら我慢かなと思っていたのだが、けっこうJRや京急沿線を北上するルートなので終電を逃した金曜夜の人たちの光景がおもしろい。上気した笑い声、尋常じゃなくふらついて前後不覚で歩くサラリーマン。タクシー乗り場の行列。なんとなく浜松町周辺で働いていた9年くらいの昔を思い出して懐かしいやらなにやら。同時に、さいきん読んだ高野秀行の『異国トーキョー漂流記』(集英社文庫)ではないが、なんとなく「トーキョー」を外から眺める視点もあって(これは自分が東北の端っこの出身だからかもしれないが)、その非日常感が、なんだかワクワクする。正直、スタートまでは不安というか、あまりおもしろさという意味での期待はなかったのだが、いい意味で裏切られてテンションがあがる。
 
狭い歩道は、舗装のつぎはぎや、車道で切れるところとか、とにかく小さなデコボコ、起伏が多く、だいぶ足腰にくるダメージが大きい。15km過ぎにはものすごく硬く感じられてきて、とてもこのあと40km以上も走れる気がしない。それでも都心部とか、臨海部は歩道が広くてフラットな部分を走ることができるので助かった。
 
東京とはいえ、1時をまわった深夜はネオンが落ちていて、だいぶ静かな印象を受ける(新宿とか渋谷は違うと思うが)。2011年の震災以前は、東京はもっと煌煌としていたのかもしれない。レインボーブリッジも消灯しておりぼんやり闇の中に最小限の補助燈だけで浮かんでいる。天空に挑む東京スカイツリーも、ふたつの輪っかが鼓動やホタルのようなテンポで寒色で静かに光っているだけで、K氏に言われるまでその存在に気づかなかった。
 
序盤はお互いまだ余裕があるので、ときに会話をしながら進む。近況とか、レースの準備の話とか。彼は再婚したらしく、いろいろと家族は大変なようだ。詳細は控えるが、いいとか悪いとかじゃなくて、なんかそんな彼の日々を思うと、自分のは比較的イベントに乏しく、ある意味「ツマラナイ」日々を送っているのだなあ、と思ってしまって、そこまで露骨ではなかったが近いことを口にしてしまったら、「なんにもないのが幸せ」と言われて、それはそうだなと。おれはいろんな意味で幼稚なのだ。
 
近くで望むスカイツリーは、遠くで見るよりも低く感じる。スカイツリーは太い。低く見えるのはそのせいだと勝手に思う。あの傲慢でマッチョな太さが嫌いというひとは多いような気がする。東京タワーと比較して。それでも真下から見上げる「バベルの塔」は、巨大な人工物、例えばダムとか橋とか、そういうものと同類の「圧倒される感じ」があって、冷たく怖い。ああいうものを構想し、実際に作ってしまうことのできる人間がもっと怖いのだが(畏怖みたいなものも含め)。
 
浅草までは近い。ほぼ人のいない雷門は希少で静かで、厳かともいえる。時間を変えるだけで、これほどまでに非日常で、楽しいものを見ることができる。しかも深夜の観光地へのアクセスは近くに住んでいない限り難しいし、けっこう無理をしなければたどりつけないから、こんな夜はとても貴重だ。
 
疲れてきているのか、K氏は当初予定していた皇居には関心を示さなかったし、自分もそれほど行きたいとも思わなかったので、東京駅の丸の内方面も含めてパス。おたがい発言が減ってきた。それでも東京タワーには行きたかったらしく、大門を経て増上寺へ。東京タワーは暖色系に光っている。あまり好きな表現ではないが、スカイツリーと比べて「ほっこり」する。「ほっこり」というのはこういう時に使うことばだろうか。増上寺には酔っ払ったようなカップルがわれわれと同じタイミングで門をくぐって、なんだかほほえましい感じがした。
 
増上寺を出るとあとは往路と同じ道に戻り、疲労の蓄積もあってひたすら耐える走り。狭い歩道のデコボコはよりかたく、脚に響く。往路ではうっとうしかった信号待ちが、疲れている身には貴重で、「タイミングよく」青信号ばかりだと恨めしいような気持ちになる。信号で止まるたびに、ストレッチをする。気休めかもしれないが、ランは同じ動作の繰り返しで飽きるし、その動きだけでこり固まってしまうので、違う動きを入れることで、実際に体だけではなく気分転換にもなる。
 
道の小さな起伏が脚にくる。臨海地区以外はほぼ平坦で登っていないので登りの脚は残っているはずだが、登りの練習をしていない身にはさすがに厳しく感じる。ロードの長い距離への耐性はまあまあできあがってきている。UTMFまで残り1ヶ月もないが、あとは歩行を含めて登りの動きを入れていきたい。
 
環八を過ぎて少し走ると大師橋が見える。これもスカイツリーと同じ巨大な建造物ではあるが、近くに住んでいるせいか愛着があって、ゴール間近ということもあると思うが、ようやく安心する。東京側から登る大師橋は急勾配で練習の終盤で走って登るのはつらい。それでも最後に力を込めて踏む。ロング走の練習ができていないらしいK氏も、意地なのか横に並んでくる(競ってはいないが)。さすがの根性だ(ちなみに普段の彼は圧倒的に強い)。ゴールは近い。心なしか力んで、息も上がる。
 
ようやくゴール。距離にして約57km。グロスタイムで7時間、ネットで5時間半くらい。ロスは信号待ち、いちどのコンビニ補給、観光地での撮影。
 
「ナイスラン」といって握手。お互いよくがんばった。ひとりでは精神的にとうていムリなランニングだったので、誘ってくれたこと、ずっと一緒に走ってくれたことへの感謝の気持ちが湧く。いい練習になった。
 
練習はいつもひとりで走っている。ひとりが好きだからというのもあるし、どうしても競争心が出てしまう自分が矮小な感じがしてあまり好きではない。でも、経験があり、自分より圧倒的に力があるひとと走るのは楽しかった。差がありすぎてもダメだから、これくらいの距離感がいいのかもしれない。