読書記録『遠い日の戦争』(吉村昭)

 

 戦争とその終結とのあいだで「正義」が変わる。

 

「戦犯」として追われる、米軍捕虜の殺害に関わった主人公の逃亡・潜伏劇であるが、描かれるのは国家間の戦争と、その大きなうねりのなかで振りまわされたひとりの旧日本軍個人の心象といえる。

 

無差別爆撃による空襲で一般人を「虐殺」した米軍の捕虜を、「正しい」復讐と思って斬首。しかし、捕虜を殺害した主人公は敗戦とともに戦犯に。確信をもって捕虜を処刑したはずが、その確信の根幹が揺らぐ。なんというか紋切り型の人を殺した「良心の呵責」みたいなものがあまり前面に出ていないのが、かえって物語にリアリティを与えている気がする。