読書記録『マチネの終わりに』(平野啓一郎)

マチネの終わりに

マチネの終わりに

平野さんのファンですが、恋愛小説が好きではないので読んでませんでした(前に読んだ『かたちだけの愛』(中央公論社)もピンとこなかったし)。ネットなんかでなんとなく評価が高い感じだったのと、さいきんドストエフスキーばかりだったので少しリフレッシュしたくなり、思いっきり現代的なしかも普段読まない恋愛モノにがっつり振ってみたのです。まあドストエフスキーの問題も現代的といえはするのですが。

毎日新聞に連載されていたということで、展開はテンポよく、飽きない。たびたび出てくる、作者特有のテーマが硬質のダイアローグ(ときにモノローグ)も、チープさに陥ることなく緊張感をたもって「理解可能」な描きかたになっている。現代の人間にまつわるもろもろの問題に積極的にコミットする近年の筆者のスタンスはそのままで、それらがより自然に(物語との破綻をきたすことなく)統合されているように思います。なので、これまでの作品を読んできた読者をして「集大成」といわしめる(Amazonのレヴューにありました)のも充分に理解できます。まあ、個人的には『葬送』とか『決壊』(ともに新潮社)みたいな重苦しいものが好きですが、ぜひ書き続けてほしい作家のひとりです。