車輪のうえ(12)

 朝から雨が降っている。

 スコールというわけでもなさそうで、しばらくのあいだ降りそうだったので、けっきょく雨があがるのを待つことなく、8:00過ぎには宿を出る。すぐに激しい雨。少し走ると雨は止んだが、またいつでも来そうな予感。変わりやすい天気というと、「空の気まぐれ」みたいな印象もあるが、どちらかというと赤ん坊の脱糞とか放尿とかに近い、意志とは無関係な生理現象に似ているように感じる。

 道ばたの食堂で昼食のミーゴレン(麺を炒めたもの、マレー焼きそば)を摂り、走り出すと再び強い天の放尿が。熱帯の生ぬるい雨水が、この比喩を勇気づける。しばしバス停で雨宿り。同じく雨宿りのマレー系の親子。おやじが話しかけてくるが、英語ではコミュニケーションがとれないようだ。現地のコトバ(マレー語)は、あいさつ程度しか知らないことが、悔やまれる。おやじのTシャツは、水分で飽和状態にあって、ボディラインを生々しく写しとっている。

 雨に打たれる不快感よりも、時間が押してしまう不安感というか焦燥感に急かされ、雨宿りもそこそこにバス停をあとにする。また少しすると陽が出てきて、暑さが戻る。

 15時前には宿に到着。99キロの行程。18リンギットで安く、ウルサい宿。夕飯は近くのフードコートでナシゴレンとビール。

 なんとなくテレビに目をやると、サダム・フセインの特集番組が放送されていた(2003年はアメリカによるイラク戦争開戦の年で、フセインはこのあとこの年の12月に逮捕される)。コトバは分からないが、親フセインの映像だった。

 尻が疲れている。道が悪いところで、尻が跳ねるのだ。