読書記録『切支丹の里』(遠藤周作)

切支丹の里 (中公文庫)

切支丹の里 (中公文庫)

これは良い。遠藤周作の『沈黙』や『女の一生』など、信仰と人間の生とを題材に扱った小説といっしょに読みたい。とくに氏をして、一連の作品を書かしめた動機がよくわかるし、おおくのひとは少なからず共感できる面もあると思われる。遠藤周作を共感をもって知るためのエッセンス満載。

もし自分が同じ時代に生れあわせていたならば、男と同じように自分が切支丹であることを知られないために、仏教徒に誘われれば寺にも参ることぐらい平気でやったろう。誰かが切支丹信仰のことを悪しざまに罵っても眼を伏せて、知らぬ顔をしていたろう。いや、転べと言われれば、自分や妻子の命を全うするために、転び証文さえ作ったかもしれない。(p.88)

小説を書き出して十年、彼はすべての人間の行為の中にエゴイズムや虚栄心などを見つけようとする近代文学が段々、嫌いになってきた。(p.90)