読書記録『錦繍』(宮本輝)

錦繍(きんしゅう) (新潮文庫)

錦繍(きんしゅう) (新潮文庫)

「ああ、無性になにかとても重いものが読みたい……。アツい恋愛がしたい……。」

そう思って手に取ったのが題名からしてなんとなく荘厳な宮本輝の『錦繍』。このコトバじたいが既に、複数の意味を持っていて、どれも物語の筋に絡んできている(ように感じる)。あと、タイムリーなことに来週蔵王に行くので、ある事件をきっかけに離婚したもと夫婦が蔵王で偶然出会うことから始まるこの往復書簡体の小説は、このタイミングでぼくにとってはとても印象的でございました。

ほぼ1日でいっきに読んだので、読ませる力を感じる。こんなにいっきに読ませたのは、最近の作家ではあまりない現象(ぼくの集中力のせいですが)。なんかよくできたドラマです。読んでる最中は夢中になりますが、終わってみると意外とコンパクトというか、読んでる最中の都度の感動(これはけっこう強い)は、読後には案外霧散してしまったような気が……。

なんというか、すごく官能的でエロ小説(そんなにエロい描写があるわけではない)かと思うくらいの読後感です。男女の粘っこい往復書簡が、性行為そのもののようで、少し恥ずかしく思われます。

よくできているがゆえに物足りなさを感じる小説。でも星4つ!

過去なんて、もうどうしようもない、過ぎ去った事柄にしか過ぎません。でも厳然と過去は生きていて、今日の自分を作っている。けれども、過去と未来のあいだに〈いま〉というものが介在していることを、私もあなたも、すっかり気がつかずにいたような気がしてなりません。(p.232)