読書記録『ハイデガー拾い読み』(木田元)

ハイデガー拾い読み (新潮文庫)

ハイデガー拾い読み (新潮文庫)

読了。

エストニアの貴族の出身であり、生涯のほとんどを在野の生物学者として生きたユクスキュルの<環境世界理論>とは、きわめて簡単に言ってみれば、動物のそれぞれの種にはそれぞれ特有の環境世界(ウムウェルト)ーその構造は、当該種の受容器つまり感覚器官と実行器つまり運動器官の特性に依存しているーがあり、動物は受容器と実行器を介してその環境世界と<機能環>とも言うべき適応関係をとり結んでおり、その環境世界に適応しているそのかぎりで動物として生存しうるという考え方である。ユクスキュルのこの思想は、近代の物理学帝国主義のもとで、生物学が物理科学と抵触しない分類学と解剖学と機械論的生理学に限局されていたなかで、生物学に<主体>と<意味>というカテゴリーを復権した革命的な思想であり、これが二十世紀の生態学や動物行動学に道を開くことになったのである。(pp.86-87)