読書記録『クォン・デ もう一人のラストエンペラー』(森達也)

 

帝国主義時代の末期、フランスと日本とのあいだで「翻弄」され揺れ動く、ベトナム最後の王族クォン・デを取材したノン・フィクション。ただし、筆者の想像による当事者間のダイアローグなどもあって、純粋で客観的なドキュメンタリーはあり得ないとする作者のスタンス(複数の著書を読んでも一貫している)は貫かれている。森達也氏は一連のオウム真理教裁判や、佐村河内守ゴーストライター事件などを扱った映像ドキュメンタリーで有名。

 

内容は、「日本人が知っとくべき歴史」と感じる。大日本帝国の植民地政策については韓国併合や台湾などは歴史授業でも習うが、「仏印進駐」で括られる日本軍の動きとその前後のできごとはあまり語られることはない。ロシアとの戦争に勝利した「アジアの盟主」たる日本に潜伏し、フランスの支配からの独立の機を待ったクォン・デは、ベトナムにおいても現代は忘れられているらしい。共産党にとっては都合の悪い存在で、一種のタブーとなっているからだ。

 

現在のロシア-ウクライナ戦争もそうだが、こんなふうに、歴史の波間に埋もれてしまう個人は多い。その象徴として、少なくとも日本人とベトナム人は忘れてはならない存在と思う。日本の墓地にもその遺骨の一部が埋葬されている(埋められている)とのこと。機会があればお墓参りに行きたい。

読書記録『浦上四番崩れ 明治政府のキリシタン弾圧』片岡弥吉

 

江戸末期〜明治にかけてのキリスト教徒弾圧について書かれた本。捕縛から棄教の圧力、拷問、島流し、外圧に対応するかたちで取られた「解放」。当時の浦上のキリシタンたちが、島流しを「旅」と表現していたところに、宗教における精神世界の時空に対する認識が垣間見えて、人間の意志の美しさにグッとくるものがある。
 
いままでは通勤時に読書をしていたのだが、在宅勤務が増えると急激に読書量が減る。

読書記録『総員起シ』(吉村昭)

 

 吉村昭の綿密な取材に基づく戦史モノ短編集。少し前に読んだ柳田邦男の『空白の天気図』もそうだが、戦争には多くは語られていない、しかしそれぞれの当事者にとってはひじょうに重要な事件が多数ある。個々のストーリーはそれぞれあまりにも壮絶なのだが、戦争という大きなうねりのなかで、「埋もれて」しまっているのだろう。毎年夏になると戦争関連の本を読むのだが、今回はけっこう沈痛な読書体験。

読書記録6~7月もろもろ(6冊)

とりあえずバス通勤で粛々と読んではいたが、仕事に時間と精神力を割かれ記録につける気力がなく。 まあ、読まないよりは少しマシ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

読書記録『批評理論入門 『フランケンシュタイン』解剖講義』(廣野由美子)

 

 メアリー・シェリーの小説『フランケンシュタイン』を紐解きつつ、小説の技法と、小説の批評の切り口を解説していく。

 

それぞれの切り口で見ることの是非というよりも、「文学の批評には〇〇という切り口があって、『フランケンシュタイン』をその切り口で語ると〇〇と読むことができる」という書き方で、勉強になる。「小説の書き方」みたいな本に比べ、書き手としての主観や「気持ち」が排除されているだけに、客観的に「小説」を捉える手引きとなりうると感じた。