読書記録『クォン・デ もう一人のラストエンペラー』(森達也)

 

帝国主義時代の末期、フランスと日本とのあいだで「翻弄」され揺れ動く、ベトナム最後の王族クォン・デを取材したノン・フィクション。ただし、筆者の想像による当事者間のダイアローグなどもあって、純粋で客観的なドキュメンタリーはあり得ないとする作者のスタンス(複数の著書を読んでも一貫している)は貫かれている。森達也氏は一連のオウム真理教裁判や、佐村河内守ゴーストライター事件などを扱った映像ドキュメンタリーで有名。

 

内容は、「日本人が知っとくべき歴史」と感じる。大日本帝国の植民地政策については韓国併合や台湾などは歴史授業でも習うが、「仏印進駐」で括られる日本軍の動きとその前後のできごとはあまり語られることはない。ロシアとの戦争に勝利した「アジアの盟主」たる日本に潜伏し、フランスの支配からの独立の機を待ったクォン・デは、ベトナムにおいても現代は忘れられているらしい。共産党にとっては都合の悪い存在で、一種のタブーとなっているからだ。

 

現在のロシア-ウクライナ戦争もそうだが、こんなふうに、歴史の波間に埋もれてしまう個人は多い。その象徴として、少なくとも日本人とベトナム人は忘れてはならない存在と思う。日本の墓地にもその遺骨の一部が埋葬されている(埋められている)とのこと。機会があればお墓参りに行きたい。