読書記録『戦艦武蔵』(吉村昭)

戦艦武蔵 (新潮文庫)

戦艦武蔵 (新潮文庫)

近距離射撃に向かない主砲が砲撃をやめると、副砲・高角砲が連続的に弾丸を発射し、つづいて百余挺の機銃も一斉に火をふき出した。それは、音のすさまじい氾濫だった。音響が空間を塗りつぶした。高角砲も機銃も生き物のように旋回し、果しなく弾丸を発射しつづける。上空には、多彩な光の筋が交叉し合い、点状の黒煙が胡麻粒をまいたようにすき間もなくひろがってゆく。その中を、淡水魚のような腹をみせた敵機がすさまじい速度で入り乱れ、透きとおった炎をひきながら海中に突っ込んで行く機体や、瞬間的に空中分解する機体もあった。かれらの攻撃は、主として大和・武蔵に集中されているらしく、大和の近くの海面にも水柱が上るのがみえる。
(pp.244-245)