- 作者: 太宰治
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2006/01
- メディア: 文庫
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改めて読むと、なんて、陰うつな本なんでしょうか、という感想をもちます。ダラダラと女のところに転がり込み、悪友と酒を飲み、中身のない会話を重ね(主人公自身がそう思っている)、なんとなく流れで情死。また女のところに転がり込み、薬を煽って自殺未遂。薬にハマって、病院送り。
そして読者は思う、これはおれだと。程度の差はあれ、外面だけよくて、そのくせテキトーに生きているおのれの姿、それが描かれている。読者はただ、共感の喜び、密かな友をみつけたかのような快感に浸り、そしてけっきょくはそれ以上でもそれ以下でもないことを悟る。読後感は、複雑である。けっして気持ちがいいといえるものではない。
太宰の功罪は、このような自意識に満ちた私小説をある意味「高尚な」文学として、一般の人たちが恥ずかし気もなく読めるようにしたことでしょう(太宰個人の恣意という意味ではなく、太宰治という文学者の存在そのものがもつ恣意性という意味で)。読んで共感していることを公言できるような内容ではない、このような小説が「文学」の入門書みたいな位置付けになっていること自体、けっこう変だと思ういっぽう、そんな日本人をおかしくも愛したくなる小説ともいえる。