読書記録『人間失格』(太宰治)

人間失格 (新潮文庫)

人間失格 (新潮文庫)

中学か高校の時に読んで以来、ジツはご無沙汰、なんとなく読んだつもりになっていた本。

改めて読むと、なんて、陰うつな本なんでしょうか、という感想をもちます。ダラダラと女のところに転がり込み、悪友と酒を飲み、中身のない会話を重ね(主人公自身がそう思っている)、なんとなく流れで情死。また女のところに転がり込み、薬を煽って自殺未遂。薬にハマって、病院送り。

そして読者は思う、これはおれだと。程度の差はあれ、外面だけよくて、そのくせテキトーに生きているおのれの姿、それが描かれている。読者はただ、共感の喜び、密かな友をみつけたかのような快感に浸り、そしてけっきょくはそれ以上でもそれ以下でもないことを悟る。読後感は、複雑である。けっして気持ちがいいといえるものではない。

太宰の功罪は、このような自意識に満ちた私小説をある意味「高尚な」文学として、一般の人たちが恥ずかし気もなく読めるようにしたことでしょう(太宰個人の恣意という意味ではなく、太宰治という文学者の存在そのものがもつ恣意性という意味で)。読んで共感していることを公言できるような内容ではない、このような小説が「文学」の入門書みたいな位置付けになっていること自体、けっこう変だと思ういっぽう、そんな日本人をおかしくも愛したくなる小説ともいえる。