「秋の蚊」について調べる必要に迫られ、ネットの情報も乏しいので(というか画一的で面白味に欠けたので)とりあえずアマゾンで蚊についての文献を検索するも、わりと最近出版されたもので、良さげなものがない。学術的なものを最初は期待していたのですが、古本でも安いのがない。ということで、中坊時代から馴染みのあるシーナさん、シーナさん、ヤッホウww編による『蚊學ノ書』(集英社文庫)。やはりこのオッサンの着眼点はチガウ。
- 作者: 椎名誠
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 1998/06/19
- メディア: 文庫
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蚊學ノ青春
私がまだ二十四、五の若い頃、ある女性(ひと)と恋愛関係になりました。私は当時たいへん純情なものでしたから、その女性に迫っていって手を握るとか抱きしめてしまうとか、そういうことがなかなかできませんでした。ある部屋の中で、いつそうなってもいいような状況だったのですが、なかなかできないわけで、ドギマギドギマギしていました。部屋の中に一匹の蚊の音が聞こえました。なにか話のタネが尽きてしまって、間がないものですから、「ああ、蚊がいるね」とぼくは言いました。するとその女性が、「あ、蚊がいるわね」と答えました。ぼくが立ち上って(原文ママ)蚊を探し、「どこにいるんだろう」、などと何か必要以上に大仰にあちこち蚊を探しました。
その女性も所在なく立ち上って蚊を探しました。パチンとたたいたところで、ちょうどその女性がぼくの目の前におりましたので、なんとなくそこで、両者の手がさしのべられたという訳なのです。(pp.308-309)
ちなみにこの本では、「秋の蚊はなぜそんなにカユいのか」ということへの言及はありません。