読書記録

ようやく読了。最近、仕事の時間割の関係で体力、気力ともに読書モードではなかったので、だいぶ時間がかかってしまいました(速ければいいというものでもないが、それにしても文脈を忘れるくらい時間を要した)。

侍 (新潮文庫)

侍 (新潮文庫)

「慶長遣欧使節」、支倉常長の物語。宮城県にゆかりのある人間にとって、支倉常長は、かなり夢のあるというか、関東や関西にたいして自己主張に乏しいわれわれ東北人にとっては、日本史において心にひっかかる存在だ。そして、それなのにあまり知られている史実はないらしく、かなりミステリアスな男である(ちなみに支倉が出帆した「月ノ浦」は、3月の震災でおおきな被害を受けた牡鹿半島にあって、支倉の像が立っている)。その謎に満ちた男の半生を遠藤周作が描く。

藩の命によりローマ法王への親書をたずさえメキシコ、スペインに渡り、その目的を遂げるために「かたちだけ」ながらキリスト教の洗礼を受ける侍・支倉。その日本人たちを案内する、日本での正統な布教の権利を得んとする野心と、信仰心とのあいだで葛藤する宣教師・ベラスコ。目的を遂げられず、失意のまま帰国した彼らを待ち受ける鎖国キリシタンへの弾圧。時代のおおきな流れのなかで、個々人はいかに生き、思うにまかせぬ世界とどのように折り合いをつけていくのか。

すべては主の受難の状況とそっくりである。主もまた大祭司カヤパの住む政治の世界では翻弄され、見棄てられ、ゴルゴダの丘で十字架にかけられ給うた。だがその敗北された主が勝利を得られたのは人々の魂の世界においてであった。たしかに私(引用者注;宣教師ベラスコ)も今度の旅で、政治の世界では敗れた。だがあの蜥蜴のような国(同;日本のこと)が私を打ち破ったのはその面だけなのだ。(p.343)


キリスト教道徳ということで、思い出した書籍を挙げておきます。

道徳の系譜 (岩波文庫)

道徳の系譜 (岩波文庫)