読書記録『奉教人の死』(芥川龍之介)30-2018

奉教人の死 (新潮文庫)

奉教人の死 (新潮文庫)

芥川龍之介の「切支丹物」を集めたもの。大人になって読む芥川作品の感想は、単純に「かっこいい」。過度になりすぎない美的な追求、文体のバリエーションと、それでいて破綻させない筆力。内容はかなり湿っぽいのに、そう読ませないスパルタンかつストイックな筆致。

「されば恐らく、えるされむは広しと云え、御主を辱めた罪を知っているものは、それがしひとりでござろう。罪を知ればこそ、呪もかかったのでござる。罪を罪とも思わぬものに、天の罰が下ろうようはござらぬ。云わば、御主を磔柱にかけた罪は、それがしひとりが負うたようなものでござる。但し罰をうければこそ、贖いもあると云う次第ゆえ、やがて御主の救抜を蒙るのも、それがしひとりにきわまりました。罪を罪と知るものには、総じて罰と贖いとが、ひとつに天から下るものでござる」p.32-33「さまよえる猶太人」