「運命」など信じるに値しないコトバだ。それは将来についての解釈の問題であって、現在形の文脈で語られるばあい、すべてある種の嘘臭さをはらむのだ(できないことを、できる、と言ってしまうような)。いま言えるのは、身のまわりに起こるすべてのことは、すべて偶然が重なっていまここに至ったもの、ということだけ。それはミルクレープのように層が厚く、だるいくらいにでっちりとして重い(あまり甘くないミルクレープは好きだが)。
博士と狂人―世界最高の辞書OEDの誕生秘話 (ハヤカワ文庫NF)
- 作者: サイモンウィンチェスター,Simon Winchester,鈴木主税
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2006/03/01
- メディア: 文庫
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もちろんこれだけで、この大辞典を所有する必要性が正当化されるわけではない。だが、そこにマイナーの名前を見出したとき、偶然何かを見つけることのすばらしさが本当によくわかるのだ。OEDの名声のゆえんは、まさにここにある。辞典のなかで偶然、何かを見つけるのがとてもすばらしいということに、異論を唱えるものはまずいないだろう。(pp.350-351)