読書記録

ワニと龍―恐竜になれなかった動物の話 (平凡社新書)

ワニと龍―恐竜になれなかった動物の話 (平凡社新書)

もうすぐ脱ぐころ。と書くと、落ち目のアイドルとか女優のことみたいだな。いやいや、うちのヘビがそろそろうちにきて2度目の脱皮をしそう、ということです。まあ、それは余談ということで(冒頭から余談というのもどうかと思うが)、ヘビの飼育を始めたということもあり、最近はあらためて爬虫類関連の書籍を漁ってます。

『ワニと龍』。ひとことでいって、楽しき良書でございました。「龍」は伝説上の動物ではなく、実は「マチカネワニ」という種類のワニではなかったか?という問いと、その論証が中心。ほとばしるワニへの愛情を、爬虫両生類学者が炸裂させる渾身の一冊。

最初は推論ばかりでうさんくせえな、と思ってしまうが、最後にはいつの間にか、おおーなるほどー、と唸ってしまう展開。いわゆる学術論文チックではなく、かなりユルいというか、著者の個性がかなり出ている文章なので、読みものとしても楽しめると思います。一例を少し長くなりますが引用。

 実際のところ、ワニにとって小型のワニを補食することは危険である。というのも、攻撃された仔ワニが悲鳴をあげると、周囲のワニが寄ってたかって加害者を攻撃するという行動がみられるからである。(中略)
 実際、この仔ワニの悲鳴というのは驚くべきもので、たとえばキュビエムカシカイマンの仔を鳴かせると血縁がないはずの同一種の大型個体どころか、白亜紀以来(!)、縁もゆかりもないナイルワニやマレーガビアルといった連中まで激昂して襲いかかってくるのである。いわゆる双利共生という説明に該当するのだろうが、理屈も何もわからないまま、この現象を私は「お子さま生命保険」と呼んでいる。
 おもしろいことに、ちゃんと保険金(?)詐欺をやるやつがいて、ミナミガエル科のナンベイウシガエルはヘビに襲われると仔ワニの悲鳴に似た音声を発する。そばにワニがいれば、カエルより目立つヘビがワニに襲われる段取りになっているのである(Le Vering,1999 abstr.)。(pp.196-197)

個人的にグッときたのは、恐竜のハナシ(主題のワニでなくてすいません)。ティラノサウルス・レックスの復元はしばしばワニのように歯がむき出しになって表現されているが、生物形態学的には歯を覆っている「くちびる」が存在していたという論証。あと、ディノニクスやヴェロキラプトル(映画「ジュラシックパーク」出てくる人間より少し大きいくらいの凶暴なアレ)の足の爪(おっきくて太いアレ)は、攻撃用のものではなかった、とか。とにかく子どものころのなんだかワクワクする気持ちになりました。