『空白の五マイル』、『雪男は向こうからやって来た』に続く、角幡唯介のノンフィクション3冊目。本人も書いていたし、高野秀行氏との対談でもいっていたが、かなり完成度が高く、内容、構成ともに「できあがっている」かなり読み応えのある一冊。
北極探検中に全員姿を消したイギリスのフランクリン隊。そのたどった軌跡をなぞりながら、筆者自身が生きるということ、冒険ということ、を体感する。寒さや飢えを凌ぎながら生死の境界線でギリギリとどまりつつ進む北極の旅。読者は追体験しながら、生のヒリヒリする感覚、生々しさを味わうことができる思索の道程。とくに筆者を苦しめる口唇ヘルペスなどの身体的な苦痛や、動物たちとの生と死のやりとりが象徴的で本著の重要なポイントだろう。
件の高野氏との対談でも同じようなことが言われていたが、本作はあまりにもよくできていて、ややツルッとしているというか、冒険のゴリゴリ突き進む感じは『空白の五マイル』が勝っている印象。だからといってこの本のおもしろさはいっさい削がれないわけだが。