読書記録『NORTH 北へ アパラチアン・トレイルを踏破して見つけた僕の道』(スコット・ジュレク)

ウルトラランナー、スコット・ジュレクがアメリカのロングトレイルのひとつ「アパラチアン・トレイル(AT)」のハイクの最速記録に挑む。サポートは妻や友人、彼の挑戦をSNSでフォローするスコットのファンたち。

 

当然ATほど長くはないにしろ、ロングトレイルを経験したひとであれば共感できる部分が多い。自分の限界や、好調・不調、ハイとローのあいだを漂う感情の波、緊張と弛緩、眠気。場合によっては幻覚。日常生活のちょっとした悩み、大きな悩み。自分のこれまでとこれから。人間関係。

 

ちょっと気の遠くなるような長い行程を行く壮大な「遊び」は、総合芸術だと思う。ある登山家は登山を「総合格闘技」に例えていたようだが、自分にはそう思えない(環境が暴力的な超高所、いわゆる8,000m峰の「デス・ゾーン」などはそうかもしれないが)。自然には戦っても勝てないし、山で遊ぶことはその広大な懐で「遊ばせてもらっている」ことだと思うからだ。ひたすら長い距離を、自分自身、他者、自然などの様々な変数に向き合いながらともに進む。

 

それは相手を倒すとかいうことよりも、(自分自身を含む)世界といかに向き合うか、というスタンスに近い。(なので、「制覇」や「踏破」や「ピークハント」とかいう表現は、個人的にあまり山に関する話で使いたくない言葉ではある。)